自治体DXに求められる人材像とスキル ― 3類型別の目標設定で自庁を捉える | 自治体DXを支える人材育成②
「DX人材を育てよう」という掛け声はあっても、どんな人材を、どの水準まで育てるのかが曖昧なままでは、育成計画は描けません。国は、自治体が育成・確保すべきデジタル人材を体系的に整理しています。第2回は、総務省が示すデジタル人材の3類型と外部人材スキル標準の4役割を確認したうえで、人材像ごとの役割、知識・技能、必要人数、育成・確保方針を整理し、自庁の現在地を測るものさしを示します。
デジタル人材の3類型と人材像別の目標設定
国が示す3つのデジタル人材類型
自治体が育成・確保すべきデジタル人材像の一次的な出所となるのが、総務省が2023年(令和5年)12月に示した「人材育成・確保基本方針策定指針」です(出典:総務省「デジタル人材の確保・育成(人材育成・確保基本方針策定指針)」)。この指針を踏まえ、自治体DX全体手順書の別冊として実務上のポイントをまとめたものが「デジタル人材の育成ガイドブック」です(出典:総務省「デジタル人材の育成ガイドブック」)。これらの資料では、育成・確保すべきデジタル人材像を、高度な専門知識・技能を有する「高度専門人材」、デジタルと行政実務の双方を理解し中核として実務を取りまとめる「DX推進リーダー」、導入されたデジタルツールを正しく活用する「一般行政職員」の3類型に整理しています。
人材類型 | 人材像の定義 |
|---|---|
高度専門人材 | 高度なデジタル分野の知識・技能を有し、デジタルツールの目利きや開発ができる人材。高度な住民サービスの構想・事業化、技術的助言、導入・実装支援、事業の評価・見直しなどを担う。 |
DX推進リーダー | デジタルに関する一定の知識と行政実務の知識・経験を兼ね備え、一般行政職員や高度専門人材と連携し、中核となって実務を取りまとめることができる人材。現場をけん引し、経営層や関係者との橋渡し、課題整理、合意形成、業務改善の推進を担う。 |
一般行政職員 | 導入されたデジタルツールを正しく使い、業務システムの操作に習熟する人材。デジタル技術やデータを日常業務で適切に活用するための基礎的な知識・リテラシーを身に付ける。 |
総務省の定義する人材像ごとに現状と目標を整理する
総務省の「人材育成・確保基本方針策定指針」と「デジタル人材の育成ガイドブック」では、全国共通の段階数や一律の到達基準を定めるのではなく、「高度専門人材」「DX推進リーダー」「一般行政職員」の人材像ごとに、求める役割と必要な知識・技能を明確にし、育成・確保すべき人数の目標を設定することを求めています。
自庁の現状は、例えば次の観点で棚卸しできます。
<人材像に対して現状把握をしておきたい項目>
各類型に期待する役割
現在の知識・技能の水準
必要人数に対する充足状況
育成または外部確保の方針
高度専門人材は高度な知見に基づいて構想、技術的助言、実装支援を担えるか、DX推進リーダーは行政実務とデジタルの双方を理解して関係者をつなぎ、業務改善を取りまとめられるか、一般行政職員は導入されたデジタルツールを正しく活用できるかを確認します。診断結果は類型ごとの人数目標と育成・確保施策に結び付け、定期的に検証・見直します。

図1.総務省の定義する人材像に対して把握すべき項目
内部育成と外部登用を組み合わせる
高度専門人材については、高度な住民サービスの構想・事業化や、事業の評価・見直しを担う役割と、それに必要な知識・技能を明確にします。この層の確保に当たっては、庁内での育成に加え、外部人材の活用や都道府県による広域的な確保も選択肢となります。すべての人材を内部で育て上げることを前提とせず、必要人数に対する充足状況を確認し、内部育成と外部からの確保を組み合わせて必要な機能をそろえる、という現実的な発想が計画には求められます。
先ほどの現状把握において「期待する役割」「現在の知識・技能」「必要人数に対する充足状況」「育成・外部確保の方針」を示しました。これらを可視化し、現状と目標のギャップを把握したうえで、複数年の育成・確保計画に落とし込みます。具体的な期間や到達目標は、総務省資料を参照しつつ、各自治体の規模、体制、課題に応じて設定する必要があります。まず自庁の各人材類型について現状を整理することが、計画づくりの出発点になります。
あわせて、策定指針は人材の育成にとどまらず、人材の確保や職場環境の整備を含む複数の視点から、自治体が戦略的に取り組むことを促しています(出典:総務省「デジタル人材の確保・育成(人材育成・確保基本方針策定指針)」)。つまり「研修を実施すること」だけがゴールではなく、育てた人材が力を発揮し、定着できる環境まで含めて設計することが求められているのです。

図2.人材育成計画の流れ
外部人材スキル標準が示す4つの役割
外部人材が担う4つの役割
庁内職員の育成と並行して論点になるのが、外部デジタル人材の活用です。総務省は2022年(令和4年)9月に「自治体DX推進のための外部人材スキル標準」を策定し、2026年(令和8年)3月に想定される役職・呼称やスキル要件を一部改定しました。外部人材が担う役割は、全庁的なDX企画・推進を担う「プロデューサー」、個別プロジェクトの企画・推進を担う「プロジェクトマネージャー」、利用者視点でサービスや業務を設計する「サービスデザイナー」、デジタルツールを実装して効率化・利便性向上を実現する「エンジニア」の4つです(出典:総務省「自治体DX推進のための外部人材スキル標準 解説書(令和8年3月改定)」)。
資格・経験基準を採用に生かす
スキル標準は、それぞれの役割に望ましい資格や経験の目安も示しています(出典:総務省「自治体DX推進のための外部人材スキル標準 解説書(令和8年3月改定)」)。たとえばプロデューサーには、ITストラテジスト、システムアーキテクト、システム監査技術者、情報処理安全確保支援士などが、プロジェクトマネージャーにはプロジェクトマネージャ試験やPMPが例示されています。一方で、サービスデザイナーは資格だけでなく実務経験も重視されるなど、役割ごとに求められるものは異なります。こうした基準は、募集要項の作成や、庁内で必要な役割・要件を共有する際の参考になります。役割が曖昧なまま採用に踏み切り、期待と実態がかみ合わないという失敗を避けるためにも、有用な手がかりです。
※これらは必須要件ではなく、備えておくことが望ましい資格・経験の例です
「人材類型×技術領域」で捉えると打ち手が見える
人材類型と技術領域を掛け合わせる
3類型と技術領域を掛け合わせると、育成の全体像を捉えやすくなります。技術・スキルを、ITリテラシー基礎、生成AI活用、クラウド基礎、セキュリティ運用、データ活用・BPR、開発・診断等の専門技術に分け、各人材類型に必要な範囲と深さを検討します(これは国が定めた一律の分類や対応関係ではなく、自庁の役割分担と育成優先度を考えるためのものです)。
役割別に育成の優先順位を決める
この整理は、育成の優先順位づけにも役立ちます。生成AIやデータ活用については、一般行政職員にも基礎的な理解と安全な利用方法の習得が求められます。一方、専門的な開発やセキュリティ診断は、高度専門人材や外部人材を含めた体制で担うことが現実的です。自庁の現状をこのマトリクス上に整理すれば、「まずどの層の、どの領域から手をつけるべきか」という判断がしやすくなります。全職員に一律の研修を課すのではなく、役割ごとに必要な学びを見極めることが、限られた時間と予算を有効に使う近道です。

図1.必要スキル×人材類型の対応マトリクス (総務省資料を踏まえた整理例)
見落とされがちな追い風 ― 育成への財政措置と数値目標
DX推進リーダー育成への財政措置
育成を後押しする制度面の裏付けもあります。総務省は、DX推進リーダーとして計画的に育成する職員を対象とした研修費、民間講座の受講料、一定の専門的な資格試験の受験料などについて、特別交付税措置(対象経費の合計額に0.7を乗じた額)を設けており、対象期間は令和11年度まで延長されています(出典:総務省「DX推進リーダーの育成に係る特別交付税措置」)。
※ただし、育成プログラムに記載のない研修、幅広い職員を対象とした一般的な研修、初歩的な資格試験などは対象外です。具体的な要件は最新の総務省資料を確認し、自治体の財政担当部局とも調整する必要があります。
育成の「はじめの一歩」
では、こうした人材像に向けて、具体的に何から学べばよいのでしょうか。ガイドブックは、育成の「はじめの一歩」として、業務効率化ツールや生成AIを実際に試してみることなどを取組例に挙げています(出典:総務省「デジタル人材の育成ガイドブック」)。あわせて、ITパスポートをはじめとするIT関連資格の取得も、体系的に基礎を固める手段として示されています。いきなり高度な専門研修に進むのではなく、全職員が触れられる入口を用意し、そこから関心と適性に応じて段階を上げていく設計が現実的です。
複数年計画と数値目標を設定する
そして、これらを一枚の計画に束ねるのが複数年の育成計画です。ガイドブックには、年度ごとに対象人数や到達目標を定めた工程表の例も示されています(出典:総務省「デジタル人材の育成ガイドブック」)。
政府の政策工程では、令和7年度中を目途に人材育成基本方針にデジタル人材の確保・育成に係る数値目標を設定することとされていました(出典:内閣官房「デジタル行財政改革(総務省提出資料)」)。
現在はこの目途を過ぎているため、各自治体では、数値目標の設定状況を確認し、設定済みの場合は進捗を検証・見直すことが重要です。単年度の研修を積み重ねるのではなく、複数年の見通しと数値目標のもとで「どの層を、いつまでに、どの水準へ」引き上げるかを描くことで、育成は場当たり的な取り組みから脱し、組織的な営みになります。育成効果をどう測るかという視点については、連載の最終回であらためて具体的な指標を取り上げます。
まとめ ― まずは求める人材像を把握することから
自治体DX人材育成の第一歩は、求める人材像を明確にし、自庁の現在地を把握することです。3つの人材類型ごとに役割、スキル、必要人数を整理し、人材類型と技術領域の両面から育成の優先順位を定めます。そのうえで、庁内育成、外部人材の活用、財政措置を適切に組み合わせ、数値目標を伴う複数年の育成・確保計画へ落とし込むことが重要です。こうした一連の取り組みによって、人材育成を単発の研修ではなく、自治体DXを継続的に支える組織的な仕組みへと変えていくことができます。
次回は「生成AI活用」を取り上げ、自治体における導入の実態と課題、現場に求められるスキルを数字と事例から読み解きます。
主な出典

