JTP Technology Port

    技術や情報、そして人々が集まる"港"

想像を現実に変えるAIエージェント―AWS Summit Japan 2026基調講演レポート

2026年6月25~26日に開催のAWS Summit Japan。基調講演の中心にあったのは「AIエージェント」でした。単に業務を効率化するだけでなく、ビルダーの想像力を現実に近づけ、これまで実現が難しかったことの境界を押し広げる存在として語られていました。すでに業務やビジネスの現場で動き、成果が出始めている現在地と、その実装を支えるAWSの取り組みが示されました。

 

 

AWS Summit Japan 2026 とは

AWS Summitは、Amazon Web Services(AWS)が世界各地で開催する、クラウドとテクノロジーの活用をテーマにした大型イベントです。最新サービスの発表や顧客事例の紹介、パートナー企業による展示などを通じて、ビジネスや社会の課題解決のヒントを共有する場です。日本でも例年多くの来場者を集めており、経営層から技術者まで幅広い層が参加します。特に今年は例年以上に注目度が高く、入場待ちの長い列ができていました。

本レポートでは、初日の基調講演で示されたAIエージェント活用の現在と、新たに発表された主なサービスをご紹介したいと思います。

AIエージェントは、すでに業務を動かす存在へ

講演を通じて伝わってきたのは、AIエージェントが「試す」段階から「日々の業務で使う」段階へと移ってきている、という現在地でした。AWSはエージェントを構築し、業務に組み込み、必要に応じて拡張していくための土台を整えようとしています。これまで数年かかっていた仕事が数日で進むような場面も出てきており、AIは一部のエンジニアだけでなく、幅広いナレッジワーカーの仕事に入り込みつつあります。

その背景にあるのが、進化のスピードです。OpenAI Japanからは、AWSとの連携が紹介されました。モデルのリリースサイクルはかつての15か月から1か月半ほどへと短くなっており、進化のテンポが大きく変わってきています。その中心にあるツールのひとつとしてOpenAIのCodexが挙げられ、日本はその活用の伸びが世界で2番目に大きい、という説明もありました。

もうひとつ印象に残ったのが「条件に応じて組み替える」という考え方です。用途や状況に合わせて部品を入れ替えるように構成を変えられる、いわばビルディングブロックのような発想で、Amazon Bedrockをはじめとする各サービスに共通する設計思想として位置づけられます。あわせて、こうした活用を進めるうえでセキュリティを最優先事項として扱う姿勢も示されました。

開発の進め方を変える ― AI駆動開発(AI-DLC)

特に注目を集めたのは、AI駆動開発(AI-DLC:AI駆動開発ライフサイクル)の領域です。AIを開発サイクルの中心に据えることで、開発のスピードや提供までのスピードが上がり、効果が出始めています。ここで重要なのは、単に開発を速くするだけでなく、ビルダーがアイデアを形にし、検証し、業務へ展開するまでの障壁を下げることです。日々の業務を束ねる入り口としてはAmazon Quickが示され、やりたい成果を伝えると社内のデータを横断的に扱い、関連する作業まで進めていく仕組みです。

開発そのものを設計段階から変えるツールがKiroです。仕様に基づいて「最初から正しいコード」を目指すアプローチで、ガバナンスを保ちながら進められます。場所を選ばず作業を続けられるiOSアプリ版も今回発表されました。

あわせて、本番環境の信頼性やパフォーマンスを自律的に支えるAWS DevOps Agentも取り上げられ、生成された段階でコードを評価するリリース管理の機能が紹介されました。

 

特に印象的だったのが「必要なのは、常に稼働し続けるエージェント」という考え方です。一度直せば終わりではなく、止まらずに動き続けることが大切だ、という文脈で発表されたのが、AWS Transform – continuous modernization(継続的モダナイゼーション)でした。技術的負債の分析と修復を大規模かつ継続的に行い、コードベースを常に最新に近い状態へ保つことで、負債が積み上がるタイミングそのものを作らない、という考え方です。AWS Transform全体では、これまでに160万時間以上の手作業によるモダナイゼーションが削減された、とのことです。

事例:東京海上日動火災保険 ― 開発の変化が経営の変化へ

事例として紹介されたのは、東京海上日動火災保険の事例です。同社ではAI駆動開発を中心に据え、すでに積極的に取り入れている様子が紹介され、「ゲームチェンジャー」であると表現されました。

Kiroを活用し、二つの変化が示されました。一つ目は、開発の在り方の変化です。工程が自然につながり、これまで個人の経験に頼っていた暗黙知が言葉として表に出てくることで、属人化が自然にほどけていった、とのことです。二つ目は、意思決定の速さの変化です。これまで半年・数百万円規模かかっていたプロトタイプ作成が、1日・わずかな利用料で済むようになった、とのことです。「作ってから確認する」のではなく「確認しながら作る」進め方に変わり、半年後を見据えた意思決定が、今日から実行計画を話し合える状態へと変化しました。これは、お客様に届けるまでのスピードの変化に直接つながります。

その先に示されたのは、人とAIがともに進む構造改革という視点です。AIは人に取って代わるものではなく、人が成長するためのパートナーとして位置づけられていました。AI駆動開発の本質は「AIが問いを量産すること」にあり、人はそれをもとに素早く、根拠を持って判断していく――こうした積み重ねが、やがて会社の構造そのものの変化につながります。開発が変わることが、経営が変わることへとつながっていく、という流れが印象的でした。

 

守りも止めない ― セキュリティとスピードの両立

AWSは「セキュリティが最優先事項」を常に掲げています。セキュリティについては、スピードとどちらかを選ぶものではない、という考えが示されました。

発表されたのが、セキュリティ関連のエージェントを束ねるAWS Continuumです。環境全体から見つかった課題を、影響の大きさに応じて優先順位づけし、対処まで進めていく流れです。あわせて、これまで手間の面で後回しになりがちだった脅威モデリングをコーディングの流れの中から生成する機能なども紹介されています。最初は人が確認する段階から始め、信頼が高まれば自動で対処へ移していける、という段階的な設計です。

独自のエージェントを支える ― ハーネスとデータ

最も価値につながりやすいのは「自社にしか作れないエージェント」だ、という考えのもと、その土台として重視されていたのが「ハーネス」でした。アイデアから実際に動くエージェントまでを数分で形にできる仕組みが、Amazon Bedrock AgentCore harnessです。これまで数か月かかることもあった基盤づくりを、設定の記述で短時間に進められます。エージェントの構築、デプロイ、スケーリングを容易にするという今回のメッセージを、実務に近い形で示す内容でした。

 

そして繰り返し示されたのが「コンテキストがすべて」という考え方です。正しい答えを導くには、エージェントに適切なデータをつなぐ必要があり、そのデータは、パブリックデータ・非構造化データ・構造化データの三つに整理され、それらを支えるデータ基盤サービスも整理されました。

 

AIエージェントを支えるデータ活用基盤

仕組み・サービス

主な役割

活用されるデータ

実務上のポイント

Web Search on Amazon Bedrock AgentCore

最新の外部情報を取り込む

公開情報・市場動向

エージェントの回答を最新情報に基づかせやすい

Amazon Bedrock Managed Knowledge Base

社内文書を権限管理つきで活用する

社内文書・ナレッジ

企業内の情報を安全にエージェントへ接続できる

Amazon Quick

非構造化データを意味的に扱う

文書・会話・業務データなど

社内情報の意味的なつながりを活用しやすい

AWS Context

データ同士の関係性を統合する

構造化・非構造化データ

エージェントに一貫したコンテキストを提供できる

Apache Iceberg形式のメタデータ活用

リアルタイムなデータ基盤を支える

メタデータ・分析基盤

既存ツールを活かしながらオープンな形式で運用できる

 

事例企業として登壇したクラウド会計ソフトfreeeを展開するフリー株式会社からは、現場での活用例も紹介されました。全国で訪問診療を支える医療法人では、これまで30分ほどかかっていた初期設定が2分程度に短くなり、空いた時間を患者との会話に充てられるようになった、とのことです。日本の中小企業に向けては、紙やエクセル中心の業務をAIが代行することで、年間3,600万時間規模の効率化が見込める、という見通しも示されました。労働人口の減少が課題となるなかで、現実的な打ち手のひとつです。

 

土台となるインフラ ― 推論とクラウドコスト

エージェントを業務に組み込み、大規模に動かしていくには、その裏側で行われる「推論」を安定して支える基盤も重要になります。エージェントが普及するほど推論の回数は大きく増え、1回の処理が何十回もの推論呼び出しを伴うこともあります。そのため、どのように推論を動かすかは、クラウドコストや経営の戦略にもつながるテーマです。

Amazon Bedrockでは活用が大きく広がっており、Amazon SageMaker HyperPodによる大規模モデル開発・推論基盤の最適化で、従来1週間ほどかかっていた処理が5日程度に短くなった例も示されました。AWSは、エージェントが切り拓く未来を現実にするための基盤投資を続けていく姿勢が示されました。

AIエージェントは、現場で価値を生み出すパートナーへ

AIエージェントは、業務を少し便利にするための道具から、企業が変化に対応し、新しい価値を生み出すための実践的なパートナーへと進化しつつあります。今回の基調講演は、その変化がすでに現場で始まっていること、そしてこれからの企業競争力を支える重要な土台になっていくことを強く印象づける内容でした。

JTPもAWS Summit Japanに出展しています。会場全体の盛り上がりと、AWSが示した方向性を、パートナー企業としてお客様への価値提供へとつなげていきたいと改めて感じる講演となりました。

本レポートに続き、会場のブース展示レポートも続々とお届けしていく予定です。どうぞお楽しみにしてください。

本記事の内容は、公開時点での内容のものです。
実際に導入を検討する際は、各製品・サービスの情報は、公式サイトのドキュメント等をご参照ください。

JTP Technology Port 新着記事