自治体DXは「導入」から「運用・定着」の段階へ ― 国の方針と実行の課題 | 自治体DXを支える人材育成①
自治体のデジタル・トランスフォーメーション(DX)は、基盤となるシステムの整備という「導入」の段階から、それを使いこなし、定着させる「運用・定着」の段階へと移りつつあります。公的資料や自治体の公表事例からは、人的資源や推進体制に関する課題が確認できます。本連載は、自治体DXを担う人材の育成・確保・配置・定着をテーマに、国の方針、求められる人材像、生成AI活用の実態、先行自治体の取り組み、実務での始め方を、全5回にわたって整理します。第1回では出発点として、国の最新方針と、人材育成を「育成・確保・配置・定着の仕組み」として捉える視点を確認します。
最新の自治体DX推進計画が示す8つの重点取組
自治体DXの土台となる国の方針が、総務省の「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」です。2020年12月に策定され、その後の制度改正や技術動向を反映して改定が重ねられており、2026年9月時点の最新版は第5.1版(2026年1月30日公表)です。計画は、『誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化』の実現に向けて、住民の利便性向上と行政運営の効率化をめざしています(総務省「自治体DX推進計画(第5.1版)」)。
<自治体が重点的に取り組む事項>
自治体フロントヤード改革の推進
地方公共団体情報システムの標準化
「国・地方デジタル共通基盤の整備・運用に関する基本方針」に基づく共通化等の推進
公金収納におけるeL-QRの活用
マイナンバーカードの取得支援・利用の推進
セキュリティ対策の徹底
自治体のAIの利用推進
テレワークの推進
たとえば筆頭に挙げられる「自治体フロントヤード改革」は、住民が申請のたびに何度も同じことを書き、長い待ち時間を強いられる従来の窓口を、「書かせない・待たせない・迷わせない・行かせない」窓口へと転換していく取組です。これは単なるシステム導入ではなく、業務プロセスそのものの見直し(BPR)を伴うものであり、8つの重点取組の多くは、ツールを入れれば完結するものではなく、業務を設計し直し、変化を現場に定着させる体制づくりを前提としています。
DXの成否を左右するのは、職員を中心とした推進体制
デジタル技術を住民サービスの改善につなげるには、業務を理解する職員が中心となり、庁内関係部門や外部人材等と連携する必要があります。第5.1版では、推進体制の構築にあたり、首長のコミットメント、CIO等による全庁調整、CISO等セキュリティ責任者、CIO補佐官等による専門的補佐、DX推進・行政改革部門、情報政策部門、法令・財政部門、人材育成・人事部門、業務担当部門など、複数の役割分担が示されています。あわせて「外部人材の活用を積極的に検討すべき」とされ、民間企業との兼務や特別職非常勤職員としての任用も想定されています(総務省「自治体DX推進計画(第5.1版)」)。
窓口改革もクラウド移行もセキュリティ対策もAI活用も、こうした庁内外の連携体制がなければ実現しません。だからこそ計画は、8つの重点取組を下支えする横断的な基盤として「デジタル人材の確保・育成」を明確に位置づけています。
こうした要請の背景には、制度上の節目もあります。基幹業務システムの標準化とガバメントクラウドへの移行は、原則2025年度末までの移行が目標とされてきました。2026年3月末時点では、移行対象となる全34,366システムのうち約29.1%にあたる10,013システムが、2026年度以降の移行が必要な「特定移行支援システム」に区分されており、これらについては概ね5年以内に標準準拠システムへ移行できるよう積極的に支援する方針が示されています(デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」)。2026年度以降は、期限内に移行を終えた団体における運用の安定化と、移行継続案件への対応の両方が課題になります。
人的資源の制約は国全体の政策課題
人材の課題を指摘しているのは総務省だけではありません。デジタル庁が政府全体の最上位のデジタル政策文書として取りまとめる「デジタル社会の実現に向けた重点計画」は、2026年7月21日に最新版が閣議決定され、「デジタル人材の確保・育成」を独立した章として掲げています。全国的なAI・デジタル人材の確保・育成目標の進捗を踏まえたネクストステップが論点となっており、地方自治体におけるデジタル人材の不足も、この国全体の課題と地続きの問題です(デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」)。
実際に、自治体現場の人的資源の制約は、数値でも確認できます。自治体DX推進計画(第5.1版)によれば、DX推進担当課室・情報政策担当課室の職員数が0人または1人の市町村は189自治体で、全自治体の11%にあたります。また、CIO補佐官等として外部からデジタル人材を任用している市区町村は267自治体(いずれも令和6年4月時点)です(総務省「自治体DX推進計画(第5.1版)」P.20)。人材育成・確保基本方針を策定済みの市区町村は、令和6年4月時点で416自治体にとどまっています(総務省「自治体DX推進計画(第5.1版)」P.26)。DX推進担当課室・情報政策担当課室の職員が0人または1人の市町村が189自治体存在するなど、一部の自治体では限られた人員でDXを担っています。
総務省は、DX推進リーダー等の育成・確保に向けた財政措置も講じています。一定の要件を満たす外部人材を常勤職員として任用する場合、令和7年度から、1人当たり780万円程度を算定額とする普通交付税措置の対象となります。また、外部人材の募集に要する経費には、措置率0.7の特別交付税措置が設けられています。令和7年度から、その上限額は1団体当たり100万円から300万円に引き上げられ、措置期間は令和9年度までです(総務省「デジタル人材の確保・育成」)。
採用以外の選択肢として、都市部企業の人材を一定期間受け入れる「地域活性化起業人」制度なども用意されており、庁内育成、採用、外部人材の任用、都道府県等との広域連携を組み合わせて人材を確保・配置していくことが求められています。こうした広域連携の仕組みや、より具体的な人材確保策、育成の効果測定の考え方については、今後あらためて取り上げます。

図1.自治体の人的資源・推進体制の現状
出典:総務省の「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」第5.1版
人材育成を阻む3つの課題
公的資料や自治体の取り組み事例を踏まえ、本連載では自治体が人材育成を進めるうえでの課題を、便宜的に「体制」「人材像・スキルの定義」「実行・定着」の3つに整理します。
体制の課題
少人数・兼任の体制でDX推進部門を担う自治体が多く、対象者の選定、学習時間の確保、研修後の実務配置、効果検証までを一貫して運営する余力が不足しがちです。研修の実施そのものを自庁だけで完結させる必要はなく、都道府県等による広域研修や外部の研修サービスと組み合わせることも選択肢になります。
人材像・スキルの定義の課題
まずは庁内人材について、役割と到達目標を定めることが出発点になります。そのうえで、庁内では担いきれない専門性については、外部人材に求める役割を明確にして任用を検討する、という順序で考えると整理しやすくなります(総務省「デジタル人材の育成ガイドブック」P.5-6、総務省「自治体DX推進のための外部人材スキル標準」P.1-2)。
実行・定着の課題
基本方針という上位の計画は策定できても、具体的な育成計画や個別の研修を実行に移し、研修後の配置や評価・継承にまでつなげる段階でつまずきやすい状況があります。
これら3つの課題は互いに関わり合っています。人材像やスキルを定義できなければ育成計画も設計しづらく、体制の余力がなければ計画は実行に結びつかないおそれがあります。一つの取り組みだけを切り離して対応するのではなく、人材像の定義、育成、配置、実務支援、効果検証を一体として設計する必要があります(総務省「デジタル人材の育成ガイドブック」)。

図2. 人材育成を阻む3つの課題
まとめ ― 必要なのは、育成・確保・配置・定着の仕組み
本連載では、これらの課題を分解して考えていきます。どのような役割が必要か、誰を育て、不足する専門性をどう確保し、どの業務へ配置・定着させるかを一体として考える必要があります。国の方針は明確であり、財政措置などの後押しも整いつつあります。
次回は、その出発点となる「求められる人材像」を取り上げます。総務省が示すデジタル人材の3類型と5段階の育成目標レベル、外部人材のスキル標準を手がかりに、庁内人材と外部人材を分けて、それぞれの役割と自庁の現在地を測るものさしを整理します。自治体の体制や課題に応じ、公的研修や外部の伴走支援を組み合わせることも選択肢となります。また、都道府県による広域的な人材確保の取り組みや、セキュリティ人材の確保、複業・兼業といった柔軟な人材確保の手法、育成効果の測定方法についても、取り上げる予定です。

