クラウドの構築・運用支援の現場から読む「FinOpsガイド」――実行のポイントと考慮事項
前回の記事では、デジタル庁「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」(GCASガイド)の全体像を解説しました。今回は少し視点を変えて、ITシステムの構築・運用支援や、内製化・最適化のご支援を手がけてきたJTPの経験をもとに、ガイドを実行に移す際に意識しておきたいポイントや考慮事項を整理してみます。
ガイドと現場の間にある「3つの壁」
実務の目で読むと、FinOpsガイドの実行にあたって、3つの壁があります。
スキルの壁
第一に、スキルの壁です。STEP3で想定されるCSP(クラウドソリューションプロバイダー)のレコメンデーション結果の解釈や設計改善の判断には、クラウドの設計・運用に関する相応の知識が前提となります。多くの自治体で、これを情報システム担当者の日常業務に組み込むのは容易ではありません。「内部育成」か「外部支援の確保」か、早期に方針を決めることが重要です。
構造の壁
第二に、構造の壁です。共同利用方式では、コスト情報もレコメンデーションの推奨事項も、運用管理補助者経由でしか得られません。按分根拠を含む情報開示をどう契約で担保するかが、すべての起点になります。
コストの壁
第三に、コストの壁です。改善作業そのものにも工数(=費用)がかかります。ガイドは、コスト最適化計画の実行(STEP 4)において、改善施策の実施後に成果を定量的に測定することを示しており、改善作業を運用保守契約や調達仕様にどう位置づけるかをあらかじめ設計しておくことが重要です(出典:デジタル庁「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」(GCASガイド)4.4)。削減効果が作業コストを上回るかを見極める「目利き」が欠かせません。
継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド | ガバメントクラウド モダン化・コスト最適化 | GCASガイド
https://guide.gcas.cloud.go.jp/modernization-guide/finops-guide
ポイント①:「契約が先、削減が後」を意識する
ガイドの構成で注目すべきは、STEP1が「調達仕様書・契約への反映」であることです(出典:デジタル庁「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」(GCASガイド)3.)。コスト情報の開示、改善提案の義務づけ、KPI・目標値の設定、年度ごとの契約見直し。これらを契約にどこまで織り込めるかが、FinOpsの進めやすさを大きく左右するように感じています。
実務上は、たとえば次のような要件を仕様書で明確にしておくと、その後の取り組みが進めやすくなると考えています。
<仕様書で明確にしておくとよいこと>
- 共同利用方式の場合
按分の計算方法(カスタムスコア等が採用されている場合はその算定過程を含む)と裏付けとなる利用実績データの定期提供。
- クラウド利用料
CSPのレコメンデーションサービスの推奨事項の共有と、それに基づく最適化提案の頻度や件数のKPI化。
- 運用管理補助委託料
「一式」ではない作業項目別の明細と工数の明示、自動化が可能な作業の協議
- 契約反映のサイクル
FinOpsの成果や見直し内容を翌年度以降の調達仕様書・契約に反映するサイクルの検討
(出典:デジタル庁「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」(GCASガイド)2.、3.、5.)
ガイドの別紙1-1および別紙1-2(調達仕様書の追加文言案)は有用ですが、利用方式や体制によって必要な要件は異なります(出典:デジタル庁「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」(GCASガイド)別紙一覧)。文言案をそのまま貼り付けるのではなく、自団体の実情に合わせて取捨選択・具体化することが重要であり、ここは第三者の目を入れてみる価値がある場面かもしれません。
ポイント②:技術改善の中心は「モダン化とBPR」
ガイドでは、一般的なクラウドのコスト構造として、仮想サーバーとデータベースで利用料の8割を占めると示されています(出典:デジタル庁「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」(GCASガイド)4.2.1)。インスタンス最適化や稼働時間の圧縮は即効性のある対策ですが、構造的に効くのは、仮想サーバー中心の構成からマネージドサービス中心の構成への段階的なモダン化です。ガイドでも、モダン化構成への移行によってクラウド利用料の最適化が見込まれるとして、段階的な移行を目指すことを示しています(出典:デジタル庁「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」(GCASガイド)4.2.1)。
そして、その前提となるのが業務改革(BPR)です。パッケージへの過剰なカスタマイズや外付けシステムを温存したままでは、モダン化もコスト最適化も進みません。標準パッケージの機能に業務を合わせてカスタマイズと外付けデータベースを減らせば、クラウド利用料だけでなく、改修・保守に係る委託料の圧縮や、将来的な公共SaaSへの移行のしやすさにもつながります。FinOpsを技術のみの問題としてとらえず、業務の見直しと一体で進める。ここがコスト構造を変えるうえで大きなポイントになると考えられます。
なお、BPRは市区町村単独では完結しない場合があります。たとえば都道府県への報告事務などが従来様式のまま求められると、せっかく標準化したシステムに外付け対応が必要になり、コスト増の要因が温存されます。業務の標準化・簡素化を市区町村と都道府県が足並みをそろえて進められるかも、今後の論点のひとつになりそうです。
ポイント③:「中立的な第三者」という選択肢
構築・運用を担う事業者にとって、コスト削減の提案は自社の委託料の縮小につながり得るため、構造上、能動的な提案の優先度は上がりにくい面があります。ガイドは、職員と事業者による検討が難しい場合、運用保守作業の改善活動を第三者の外部事業者に調達することを検討する選択肢を示しています(出典:デジタル庁「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」(GCASガイド)5.3)。これは、この構造を踏まえた現実的な選択肢のひとつと言えそうです。
見積もり・按分根拠の妥当性精査、複数事業者の比較、調達仕様書のレビュー、職員向け研修。これらは、特定の構築ベンダーの利害から独立した立場だからこそ機能する支援です(図1)。たとえば、CSPのレコメンデーション結果を「自団体のどのシステムの、どのリソースの話なのか」「対応した場合の削減額と作業コストはどちらが大きいのか」まで翻訳して職員に説明する。運用管理補助者から提示された按分根拠や作業明細を、相場観をもって点検する。こうした「発注者側に立つ技術者」の存在が、職員と事業者の情報の非対称性を埋め、事業者との健全な協業関係づくりにもつながるはずです。
デジタル庁は、都道府県と連携して市区町村に対する運用経費の見積精査を推進しており、2026年3月時点の資料では、現状で331件の見積精査を実施し、ガバメントクラウド利用料について平均約30%のコスト削減効果が確認されたとしています(出典:内閣官房「自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後の運用経費に係る総合的な対策の取組状況について」)。国の支援と民間の第三者支援を組み合わせる選択肢は、今後ますます現実的になっていくのではないでしょうか。

図1:FinOps実行の関係者と「中立的な第三者」の役割
(出典:デジタル庁「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」を基に作成)
ポイント④:削減「後」の予算サイクルをあらかじめ考えておく
最後に、見落とされがちな点がコスト削減が成功したあとのプロセスについてです。
ガイドは、コスト最適化の成果を測定し、翌年度以降の調達仕様書・契約へ反映していくサイクルを示していますが、削減によって生じた予算余剰をどのように再投資・再配分するかという財政部門との合意形成プロセスまでは具体的に描いていません(出典:デジタル庁「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」(GCASガイド)2.、4.4)。
前年度実績を基準とする予算編成のもとでは、削減に成功した翌年度に、システム更新などで増額が必要になっても認められにくい、という事態が起こりがちです。これでは現場が「削減すると損をする」と学習してしまいます。削減額の一部を改善・モダン化への再投資に回すルールを、FinOpsを始める前に財政部門と合意しておくこと。これが継続のカギになるのではないかと考えられます(図2)。

図2:削減「後」を設計する――予算サイクルの悪循環と好循環(出典:JTP作成)
体制面では、総務省の地域活性化起業人、地域情報化アドバイザー、デジタル人材確保に係る特別交付税措置といった制度を活用し、外部の専門人材を「内側に入れる」アプローチも有効です。
地域活性化起業人(企業派遣型)は、総務省資料で令和7年度から派遣期間中に要する経費の上限が590万円 / 人とされています(出典:総務省「地域活性化起業人について」)。地域情報化アドバイザーは、専門家の旅費・謝金に係る申請者負担がなく、1件の申請につき現地派遣とオンライン会議の合計21時間以内で支援可能とされています(出典:総務省「地域情報化アドバイザー派遣制度」)。
削減に取り組みたいのに、そのための支援費用を予算化しにくい――この悩みを乗り越える手段として、こうした制度も選択肢になり得ます。専任の情報システム担当を置けない中小規模の団体であれば、近隣団体との共同による外部支援の調達や、都道府県を通じた支援の枠組みを活用することも考えられます。
まとめ:技術・契約・財務をつなぐ視点を
FinOpsガイドの実行の段階では、技術(モダン化・BPR)、契約(仕様書・調達)、財務(予算サイクル)をつなぐ視点があると、取り組みがぐっと進めやすくなるように思います。JTPは、特定のクラウドや構築ベンダーの利害に依存しない立場から、コスト可視化の補完、調達仕様書のレビュー、職員のスキルアップや内製化のご支援など、自治体のFinOpsの取り組みをお手伝いしています。「何から始めるべきか」の整理からでも、お気軽にご相談ください。

